ホットケーキ

2012年03月06日

『神田・須田町の[万惣]のホットケーキを、はじめて食べたのは、たしか、小学二年生のときだから、私は八歳だった。・・・「この店はね、果物屋さんだが徒(ただ)の果物屋じゃない。東京でも指折りの店だ」と、父がいう。「へえ。果物屋にホットケーキがあるの?」「あるどこのさわぎじゃない。万惣のホットケーキは天下一品だ」』  
               ~池波正太郎「むかしの味」より~

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我が敬愛する池波正太郎先生も愛した神田の老舗「万惣」さんが、今年3月24日をもって閉店するという驚きのニュースを耳にしました。理由がまた切ない。「先の震災で建物に損傷を受け、耐震診断を受けたら、驚いた事に耐震補強ではだめで、解体・建て直しが必要との判定。 当面再築する余裕も無いので、全店休店いたします。」・・・本当に切ない。震災はこんな所にも影を落としているのです。

私は神田で働くOLとして、もちろんこのお店の存在はよく知っていました。創業160年、「いせ源」や「まつや」「竹むら」「やぶそば」等と並ぶ、老舗中の老舗です。ホットケーキがあまりに有名で、遠方から食べに来る人が沢山いるという事も重々承知しておりました。しかし会社から徒歩15分。近すぎるのが祟ってか “そのうち行こう” の連続・・・。結局は行くことが無いまま今日まで来てしまっておりました

しかしもう “そのうち” は有りません。
さっそく今日のお昼休み、テケテケ歩いて行って参りました。13時過ぎという中途半端な時間でしたがパーラーはエレベータ前まで人が一杯。数えたら22人並んでいました。回転が速いため20分ほどで中へ入れましたが、ホットケーキが出てくるまで更に20分かかりました。それだけ別れを惜しむファンが多いということなんですね


120306_1345~0001これが多くの食通を唸らせたキツネ色のホットケーキです。サクサクの表面、フワフワの内側、たっぷりのバター・・・どれも噂通りの逸品でした。店内はレトロで高級感があり大正の貴婦人がティータイムを楽しんでいそう。この空間が無くなるとは返すがえすも残念でなりません。跡地は何になるのでしょうか。どうか画一的なファッションビルなんかになりませんようにと願います



・・・閉店までまだ3週間弱ありますが、あえてこれを最初で最後の訪問と致しましょう。そして今晩は家に帰り、万惣がモデルの古典落語「千両みかん」でも聴きながら老舗の終焉を偲ぶと致しましょう。


 
                  お後がよろしいようで。



shizutamarakugo at 19:36コメント(10)トラックバック(0) 
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